2017年9月4日月曜日

人権侵害

ドゥテルテ氏がフィリピン大統領に就任して、早くも1年3ヶ月が経過しました。公約通り、フィリピン全土で展開中の対麻薬戦争。今でも毎日のように、この戦争で殺害された人々のことが報道されています。

フィリピンのテレビニュースでは、今回の麻薬戦争に限らず、事件や事故の被害者の死体を撮影することに躊躇がありません。もちろん顔や死体の状況がはっきり分からないように、ボカシをかけたり、体の一部だけをクローズアップ。それでも夕食時に、子供も一緒に見る映像としては、ショッキングに過ぎる。

ドゥテルテ大統領による対麻薬戦争と超法規的殺人は、すでに日本でも繰り返し伝えられているので、ここで詳しく解説する必要もないでしょう。この8月には、薬物とは無関係とされる高校生が、警官に射殺される事件が発生し、国内からの批判が強まっています。

このブログでも、何度か取り上げたこの話題。死刑制度が廃止されたこの国で、裁判抜きでの容疑者の殺害は、議論の余地のない犯罪行為。それでも大統領の支持率が下がる様子は見られない。

私も、国民の支持があるから許される、というものではないと思います。深刻な人権侵害だと、国連や外国の政府が懸念を示すのも当然でしょう。とは言え正直なところ、ヨーロッパやアメリカの政治家や団体が、人権や人道を盾にドゥテルテを非難するのは、感情的に反発を覚えます。

そもそも、フィリピンを含むアジアなどの国を侵略し、何百年にも渡って搾取し続けてきた国に、そんなことを口にする権利があるとは思えない。今さら人権を持ち出すのなら、麻薬がここまで骨がらみの社会問題になる以前に、なんらかの支援策を取れなかったんでしょうか。

無茶苦茶な理屈なのは分かっています。法が無視され、一方的に殺害される人がいる現状に異を唱えるのに、その人の国籍は関係ありません。分かってはいるんですが、どうしても腹が立って仕方がない。

私は今のやり方が最善の方法だとは思いません。毎日、警官に殺された人の肉親や友人が嘆く姿を、テレビで見せつけられるのはうんざりです。でも、雑貨屋のオバちゃんまでが、覚醒剤の密売をするほど歪んだ社会を、他にどんな手段で矯正できると言うのでしょうか。

実は、私たちの住むネグロス島のシライ市にも、対麻薬戦争の影響がジワジワと迫っています。道端で容疑者が射殺、というような直接的な事件はないけれど、こんな田舎街のバランガイ(町内会)でさえ「対麻薬戦争」をポスターで呼びかけ。


そして、麻薬取引ができなくなって生計の道を絶たれた密売人が、窃盗や強盗に流れている。自宅近くでも、目に見えてそうした犯罪が増えています。実際にホールドアップの現場を目撃したり、銃声を聴いたという話も。

フィリピンに住む限り、他人事ではない対麻薬戦争。一刻も早く収束してほしいと願っていつつも、ドゥテルテ大統領のやり方を、単純に批判する気にはなりません。


2 件のコメント:

  1. これは、考えさせられます。同意します。フィリピンの麻薬問題は深刻で「人権より治安が優先する」と国民が考えているのだとしたら、「ドゥテルテ大統領が市民の人権を蹂躙している」と一概には言えません。近代主権国家システムでは、「国家が民主的な手続きを経て決めたことは、他国の利益を犯さないかぎり尊重する」のが大原則。どれだけ麻薬密売人が殺されようと外国はなんの迷惑も被らないのですから、「内政不干渉」の範囲内ともいえます。しかしその一方で、国家が民主的に奴隷制を導入したとしても、国際社会はこれを容認できません。近代社会には主権を超えた普遍的なルールがあるからで、基本的人権もそのひとつ。これは、「民主主義」の練習問題。人権が普遍的な価値であるとしても、主権者である国民の意思よりも麻薬密売人の人権が尊重されるべきかという問題ですね。国連やアメリカは非難するだけで、フィリピンの治安改善のために何ひとつするわけではないというのに……。

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    1. 現代民主主義や、国際ルールを考えると、いろいろ難しい側面はあろうかと思いますが、この投稿を書いたきっかけは、たいへん単純なレベルの感情です。「お前が言うなぁ〜」という魂の叫び。

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